愛され秘書の結婚事情
第四章「幸福な夢」

1.


「七緒さん。あなた本当に、この愚息と婚約しちゃっていいの? 後悔しない?」

 桐矢晶代(とうやあきよ)は初対面の七緒に、いきなりそう言った。

 七緒は驚き、「え!」と声を上げた。


 ―― ここは、鎌倉市にある悠臣の実家。

 兄の隆盛が、夫を亡くして女やもめになった妹のために建てた、大正時代を彷彿とさせる和モダンなデザインの邸宅だった。

 広い庭には季節毎に色を変える広葉樹がバランス良く配置され、ナツツバキや桜、イロハモミジが春らしい新緑に色づいていた。

 玄関だけで自分のアパートの部屋が丸ごと入りそうな屋敷に入り、シックなワンピースとジャケットで正装した七緒は、悠臣の隣で緊張に固まった。

 住み込みの家政婦であるトヨさんこと相沢トヨ子の案内で、二人は晶代が待つリビング隣のテラスに通された。
< 145 / 299 >

この作品をシェア

pagetop