愛され秘書の結婚事情

 軽く頭を下げた七緒を、悠臣は真剣な目つきで見た。

「退職の理由を教えてもらえるかな。理由次第では引き止めさせて欲しいんだけど」

「それは……」

 七緒は一瞬ためらった後に、顔を上げた。

 その時にはもう、秘書の顔つきに戻っていた。

「お話しするのはやぶさかではないのですが、多少お時間を頂戴するかと存じます。よろしければ、今夜のお食事の席でお話しさせていただきたいのですが」

「ああ、そうか。うん……そうだね」

 悠臣は無意識に壁の時計を見た。

 三〇分後にはもう、今日最初の会議が始まる予定だ。

「わかった。じゃあ仕事の後、レストランで」

「はい。ありがとうございます」

 上司の了承を得て、七緒は一礼した。

 その後は通常の業務連絡を行い、彼女の秘書としての日常が再開した。
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