愛され秘書の結婚事情

「良く眠れた? お姫様」

 恋人の額にキスを落とし、悠臣は明るい笑顔で言った。

「はい……。信じられないほど、寝ました……。申し訳ありません。同居初日に寝坊なんて……恥ずかしい」

自己嫌悪に目を伏せる七緒に、しかし悠臣はあくまで優しく、「気にしないで」と言った。

「そんなことより、体はどう? 辛くない?」

「はい。大丈夫です……」

「本当に? 痛みは?」

「……ちょっと違和感がありますけど、痛みはありません。あ、でも、少し腰の辺りがだるいかも……」

「やっぱり。まあ初めてなんだから、当然だね」

 悠臣は短く嘆息し、優しく彼女の頭を撫でた。

「今日は一日、ここでゆっくり体を休めて。食事の前にお風呂に入るといい。今、湯を張っているところだから」

「でも……」

「ダメダメ。これは上司命令だよ」

「どうして上司命令なんですか」

 不満気な七緒を笑顔で見つめ、「こう言うと、君が渋々でも言うことを聞いてくれるから」と悠臣は言った。

「そんなの横暴です」

「なんと言ってくれてもいいよ。だけど入浴とトイレ以外、僕は今日、君をこの部屋から出すつもりはないからね」

「でも食事は……」

「ルームサービスを頼むよ。君がお風呂から上がったら食べられるよう、フロントに注文しておくよ。時間的にブランチになるから、サンドイッチとフルーツジュース、あとはサラダとスープでもあればいいかな。飲み物はカフェオレ?」

「でもそんな……」

「ん? 何なら朝からフレンチのコースにしようか?」

「……サンドイッチでお願いします」

 溜め息と同時に答え、七緒は「昨日の残ったシチューはどうしますか」と言った。

「それは夕食にしよう。白米を足してリゾットにしたらどうかな。ケーキはおやつに食べよう」

 その意外な返事に驚いて、七緒は布団から少しだけ顔を出した。

「リゾット……悠臣さんが作るんですか」

「そうだよ。おかしいかい?」

「いえ。前にうちでフレンチトーストを作られた時も、すごく手際が良かったですし……。料理がお得意なんですね」

「簡単なメニューだけだけどね」

 そう言って悠臣は笑った。
< 185 / 299 >

この作品をシェア

pagetop