愛され秘書の結婚事情

2.


 遡ること五時間。

 最愛の恋人が、見知らぬ男とタクシーに乗り込み走り去るシーンを見送り、悠臣は呆然とした。

 今見た光景は幻かと、彼は茫とした頭で自社ビルに入った。

 そして受付に残っていた女性社員に、「佐々田さんはまだ社内にいる?」と訊ねた。

 だがその女性社員は、「いえ。佐々田さんはすでに退社されています」と答えた。

 さらにそこに、さきほど七緒に絡んだ女子社員の内二名が、悠臣を見つけて駆け寄って来た。

「あっ、桐矢常務!」

「今日はもうおかえりですか!」

 元気で姦しいこの二人は、悠臣が営業部にいた時からの古株で、常務になった彼にも気さくに声を掛けてくる。

 悠臣は条件反射的に笑みを浮かべ、「うん。君たちは今から上がり? お疲れ様」と言葉を返した。

「そうそう、桐矢常務! 今日私達、びっくりする現場を目撃しちゃったんですよ!」

「ねー、ホントに驚いたよね!」

 帰宅すれば小学生の子供がいる主婦の彼女達は、井戸端会議をするように悠臣に言った。

「私達、ついに佐々田さんの彼氏を見ちゃったんです!」

「彼氏じゃないでしょ。フィアンセよ」

 一人が訂正し、もう一人が「彼氏は彼氏でしょ」と言い返す。
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