愛され秘書の結婚事情

4.


 翌朝、土曜日。

 七緒は六時前の早朝に、爽快な気分で目覚めた。

 隣では悠臣がこちらを向いて、鼻の下まで毛布にすっぽり覆った状態で眠っていた。

 その寝顔を見て、彼女は自然と微笑んだ。

 七緒は今さらながら、悠臣の恋人になれた自分の幸運に感謝した。

 彼は彼女が、幼馴染の男と会ったことについて、一言も責めなかった。

 会った事実を隠していたことも。

 そして竜巳が犯した大失態についても、彼女の弟を批判したり見下したりしなかった。

 以前から思っていたことだが、七緒は桐矢常務が誰かを悪し様に罵ったり、本人のいないところで悪口を言うところを見たことがない。

 先日は伯父である会長を「サディストだ」と文句を言ったが、それは近しい身内だからこその冗談で、そこに悪意はない。

 そう、彼には悪意がない。

 生きていれば誰しも、憎らしい相手や腹立たしい存在というのがありそうなものだが、悠臣にはそういったネガティブな感情を抱く相手がいない。

 もしかするといるのかもしれないが、少なくともいつも側にいる七緒に見せたことはない。

 その事実だけでも、桐矢悠臣という男の優しさ、精神性の高さが伺える。
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