愛され秘書の結婚事情
最終章「愛情のカタチ」

1.


「え……?」

 再び恋人の口から意味不明の発言が飛び出し、七緒は悠臣の横顔を見つめた。

「私は七緒さんから、ご実家の事情やこれまでのご両親とのやり取りなどを聞かせてもらいました。ですがある人にとっての事実は、視点を変えると全く別の事実に変化することがある。……お父さん」

 無言の昌輝に、悠臣は真っ直ぐな視線を向け、言った。

「あなたは本当は、七緒さんの上京に反対ではなかった。そうではないですか」

「「え!」」

 再び姉と弟の声が重なったが、昌輝と路子は無言のままだった。

「しかし古い家制度にこだわる親族の手前、無条件に彼女を送り出すことは出来ない。ゆえに、三十歳までに結婚相手を見つけなければ……という適当な条件をつけた。違いますか」

「…………」

 昌輝は無言だったが、代わりに路子が「仰る通りです」と言った。

「七緒が大学生の時はまだ、姑(はは)が存命で……。あの人は家をとても大切に思っていて、それに背いて七緒を自由にさせたら、色々と面倒なことになると考えて、私達は結婚の条件をつけました。七緒が三十歳になったら必ず呼び戻すからと、姑に嘘をついたんです。このことは、私と主人、二人で話し合って決めました」

「嘘……」

 思いがけない真実を聞かされ、七緒は呆然と呟いたが、悠臣はそれを無視して両親との会話を続けた。
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