愛され秘書の結婚事情

「どいつもこいつも……何なんだよ一体!」

 一人も味方がいないと悟り、央基は頭を抱えてベッドに座り込んだ。

 これまで彼は、二度の絶望を味わっている。

 一度目は、子犬の頃から可愛がっていた愛犬を失った時。

 ニューファンドランドという大型犬で、番犬として親にプレゼントされた犬だが、賢く愛情深く、弟のいない彼にとってはまさしく、弟同然に育てた最高の家族だった。名前は真っ黒い毛並みだからクロ、だった。

 家族以外の人間で、大型犬の彼を怖がらず可愛がってくれたのが、七緒だった。

 老衰でクロが死んだ時は、一緒になって一晩中泣いてくれた。

 その時、二人は初めてキスをした。

 央基にとっては何度目かのキスだったが、七緒にとってはファーストキスだった。

 その事実が、央基は何より嬉しかった。

 あの時、彼女を一生大切にしよう、と決めた。

 それなのに、自分の短気のせいで、呆気なく破局した。
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