愛され秘書の結婚事情
「安心して下さい。私は今、何の不満も持っていません。だって別にセックスしなくても、私はいつも、あなたからの愛情を感じているから」
会話をしながら七緒は、悠臣の手を引いて寝室に連れて行くと、その長身をベッドの端に座らせた。
クローゼットから新しいパジャマを取り出し、それを彼の隣に置き、まずネクタイから外してやる。
悠臣はされるがまま、幼児のように服を脱がせてもらった。
「それに、私がして欲しいと言えば、あなたは必ず応えてくれるでしょう?」
「まぁ、可能な限りは……」
「その気持ちだけで充分です」
慣れた手付きで男をパジャマに着替えさせ、七緒は服を片腕に掛けたまま、今度は彼を洗面所に誘導した。
「さ、歯を磨いて下さい。私は旅行鞄の中身を片付けます」
「僕は手伝わなくていいの?」
「ええ。私はあなたの専属秘書ですから」
「今は勤務時間外だよ」
「ええ。だけど今日は……いえ、昨日から、あなたは私のために、私の家族のために、沢山働いて下さったでしょう?」
少し目を伏せて、七緒は言った。
「私達家族を和解させ、弟のヤル気を引き出し。塚川家との確執を取り除き、央基との縁談を円満に解決して下さいました。……本当に、本当に、感謝しています。……ありがとう、ございます」
そこで涙を滲ませた目で、七緒は悠臣に向かって深々と頭を下げた。
今日一日で悠臣が起こした奇跡は、彼女にとって生涯忘れられない出来事になった。