愛され秘書の結婚事情

 無表情で報告する恋人を、信じられない思いで見つめながら、悠臣はゆっくり彼女に近付いた。

「その、キスって……口に、されたの」

「はい」

「どこで? まさか受付前で?」

「はい」

 悠臣はごくり、と息を飲み、言った。

「その……君は、大丈夫なの?」

「……大変不快ではありますが、大丈夫です。後ですぐに歯磨きとうがいをして、消毒しました。犬に噛まれたと思って諦めます」

「消毒って……」

 呆れた顔をした悠臣はけれど、すぐにプッと噴き出し、いきなり彼女の体を両手で抱き寄せた。

 七緒はびっくりして、「じょ、常務……」とその胸を両手で押し返そうとしたが、相手の体はびくともしない。

「あの、勤務中です……。会長とのお約束が……」

「それはこの際、非常事態だから無視するよ」

 言うなり、悠臣は彼女の眼鏡を外し、口づけた。

 七緒は抗うことも出来ず、そのキスを受け止めた。
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