愛され秘書の結婚事情

「何をしてるんだっ!」

 とっさに花束を投げ捨て、悠臣はよろけた七緒に駆け寄った。

「いっ……たたた……」

 頬を押さえて呻く彼女を、悠臣は呆れた顔で見下ろした。

「あんなに勢い良く叩いたら、痛いに決まっている」

 呆れ顔のまま、悠臣は七緒をキッチンの椅子に座らせ、勝手に冷凍庫を開けて保冷剤を取り出した。

「ほら、これで冷やしなさい」

 自分のハンカチで包んだ保冷剤を七緒に渡し、彼は三和土に落とした花束を拾った。

 それをキッチンテーブルの上に置き、自分も七緒の向かいに腰掛ける。

「……すごく、痛いです」

「だろうね」

「痛みのある夢ってあるんでしょうか」

 その返事にプッと吹き出し、悠臣はようやく笑顔になった。

 そして彼は、スッピンで五歳くらい幼くなった、一回り近く年下の秘書を愛しげに見つめた。
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