愛され秘書の結婚事情

 たじろぐ七緒の顔を両手で挟むようにし、悠臣は強引に彼女の顔を自分の方へ引き寄せた。

 そして両手で彼女の頬を押さえ、「もうしばらく冷やさないと。患部が完全に冷えたら、一時間くらい間を空けてまた冷やすんだよ」と教師口調で言った。

「は、はい……。あの、自分で押さえます……」

 顔を動かせない状態で、視線だけ必死に逃しつつ、七緒は言った。

「ダメ」

「えっ……」

「プロポーズの返事を聞かせてもらうまでは、逃さないよ」

 そう言って、悠臣はニッコリと笑った。

「そ、そんな……」

 いつもの冷静な秘書の仮面を剥ぎ取られ、七緒は泣きそうな顔で呟いた。
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