ラヴシークレットスクール ~消し去れない恋心の行方


その直後、入江先生の携帯電話が鳴った。
彼は画面を確認したものの、通話ボタンを押さないままで。
じっと画面を見つめるだけの彼。
鳴り続ける携帯電話と彼に痺れを切らしたのはあたしだった。


『入江先生、電話、出てあげて下さい。』

「でも・・・」

『いいです。横向いてますから。』

「・・・・悪い。言葉に甘える。」


ピッ!


「はい入江です・・・・あっ、どうも・・・・ええ・・・・・ええ・・・」

ちゃんと横向きになっていたあたしは
入江先生の表情を見ることができなかった。


でも

「それは・・どういうことですか?真里さん。」

やや焦り気味に話し声だけは聴こえてしまった。

「・・・わかりました。行くようにします。」




ピッ!



隣から聴こえた通話終了音。


“真里さん”
“行くようにします”


その言葉が耳に残ったあたしは
入江先生のベクトルの向きが
もしかしたら
既にかわっているかもしれない
そうも思えた。

ずっと彼の気持ちのベクトルが向き続けていた蒼井ではなく
別の人の方向へ・・・

なんで
入江先生のベクトルは
あたしのほうへ向いてくれないんだろう?

なんで
あたしは
入江先生のベクトルを自分のほうに向けられないのだろう?


その無力感があたしに

『自宅まで送って頂いてありがとうございました。お先に失礼します。』

躊躇うことなく助手席のドアを開けさせていた。

冷たい空気が頬をチクチクと刺すように撫でてくる。
左足裏がアスファルトのごつごつとした感覚を捉えて。
助手席から降りるために鞄を肩に掛け直してからドアに手をかけた。


「高島・・・」


運転席から聞こえる声。

いつもの落ち着いた声ではなく
申し訳なさを隠せていない声。


『・・・ハイ。』

泣きそうなのを堪えて、あたしを呼ぶ彼のほうを見ることなく返事をした。


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