岐阜のケーキ屋と車椅子少年。

しかし楽しい夏が終わるのは、早いものだ。
翔馬君にいろんなことを教えてもらいそして体験した。
だが夏が終わると私は、一度
東京の方に戻らないといけなくなる。
また戻ると分かっていてもその日が来ると思うと
寂しくなるものだ。

荷物とお土産を持って祖母と一緒にJR岐阜駅まで向かった。
駅に着くと翔馬君と美紀子さんと叔父さん。
そして涼太君とお兄さんが見送りに来てくれていた。

「皆……来てくれたんだ……」

「当たり前だ。いくらまた来ると行っても
帰るには、変わらないからな。お見送りぐらいするさ」

翔馬君は、頬を染めながらもニカッと笑ってくれた。
その笑顔を見れるのは、嬉しい。
私は、うんと笑顔で頷いた。しかし
乗る予定の電車は、もう少ししたら来る。
そうなるとしばらくお別れだ。あと少し……。

「あの……お世話になりました。
また改めて岐阜に来る時は、よろしくお願いします」

私は、改めて頭を下げてお礼と感謝の気持ちを
皆に伝えた。照れてしまうし、何だか
切ない気持ちになるのは、きっとこの街に来れて
良かったと思えたからだろう。
だから、しばらくの別れでも切なくなるのだろう。

「またいつでもいらっしゃい」

「またな。菜乃ちゃん。
また皆で遊んだりしようぜ」

美紀子さんや涼太君がそう言ってくれた。
不安だった岐阜の生活は、思ったよりも楽しくて
いろんな人に出会えた。
こうやって見送りに来てくれる人も居る。
そう思うと涙が出るぐらい嬉しい……。

「あ、おい。菜乃。最後の別れじゃないのに
泣くなよ?また会えるだろう?」

「そうなんだけど……」

嬉しさと寂しさで何だか泣けてきてしまった。
不安で怖くて……なのに皆優しくしてくれて
楽しかったことを思い出すたびに涙がこぼれていく。
すると翔馬君は、車椅子を押しながら近づいてくると
私の手を握ってくれた。

「大丈夫だって……寂しくない。
お前は、1人じゃないから……また帰って来いよ。
俺らは、菜乃が帰って来るのを待っているからさ」

< 91 / 128 >

この作品をシェア

pagetop