アンティーク
「待ってください」
私は、その言葉を将生さんに大きな声で投げかけていた。
もう、周りのことなんてどうでもよかった。
同時に足も動いて、将生さんの元へ走っていく。
「やっぱり、嫌です。せっかく仲良くなれたのに、離れたくないです。レオくんとも、将生さんとも……」
将生さんの服を掴むので精一杯だった。
本当は、将生さんの身体に抱き着いてぎゅっと強く抱きしめたかった。
そうしてその感覚を確かめたかった。
これが、恋なのかは分からない。
ただ、離れていく将生さんの姿をこれ以上見たくなくて、私は自分でも気が付かないままに将生さんの足を止めてしまっていた。
「玲奈さんは、俺たちが光の中を歩いているって言ったけど、そんなことはない。俺だってレオだって、傷付きながら生きてるんだ。……だから、自分だけだって思わないで」
将生さんは、前を向いたまま話している。
だから、どんな表情で話しているかは分からないけれど、その声は今までにないくらい優しい声だった。
だから私はつい、その寂しげな背中に手を触れてしまったんだ。