Little Gang
「俺がまだ小学校入ったばっかの時、嘘をつくシーンを撮ったんだけど、放送されるとクラスの子に非難されたんだ。
みんな、お芝居だってことを分かってなかった。
あれは仲間を思ってやったことだってちゃんと見れば分かるし、俺が演じた役は悪い奴じゃない。
嫌だったら仕事を断ればいいだけの話。 俳優の仕事はそんな甘い考えで務まらないのにさ。
平気だった。 王道プリンスが生まれる日まで・・・。


俺は、迫害されても泣かなかったんだ。 仕事に責任を持たないといけないから泣いて弱音を吐いたらダメだった。
我慢してたら嘘みたいに哀しいって気持ちもなくなった。 俺が本当の自分を見失うくらいに、演じる役だけに全てを賭けた。
『終焉の街』は放送を重ねるにつれて注目度を上げていき、素晴らしい作品として評価された。
そのあと俺は、『終焉の街』での演技が評価されて次々といろいろな作品に出演するようになったんだよね。


そしてある日、心優しく正義感の強い名探偵役を演じることになった。
『終焉の街』とは真逆の役柄だったけど、完璧に演じて、クラスメイトの俺を見る目が変わっていくのがわかったよ。
みんな、狡いよね。
『潜入探偵ネズミ』が始まってから、俺のことを急に“優しいね、カッコいいね”って言い出して。

だけど、それでも兄貴や弟・・・ユリさん。俺の大好きなみんなが、俺のことを知ってくれてればそれでいいや。


・・・だけど、もう疲れた。

みんなの王道プリンスでいることに、嫌気が差してくるようになった。
そして、俺だけの何かが欲しいと思いながら、いつも誰かを気にしてた。
毎週ドラマが放送された次の日が怖い。
何を言われるんだろうって。
その“劣等感”が、俺を俳優・西郷ユウタとして成長させてくれてるんだ。
結局、俺は“あの西郷ユウタ”と同じレールを歩かなきゃダメなわけ。


大好きな演技で大切な人達に何か届けたいって気持ちは今後も変わらない。
でも、ありのままの俺も、どこかでさらけ出せたら・・・。
そして受け入れてもらえる勇気を出すことが出来たら、って思うんだ。
できるかな・・・俺」

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