ウェディングベル

柳玲





私の姉、柳玲は私にとって劣等感へと苛(さいな)む『しこり』だった。


小さな街なので噂は常に流れているが、姉の噂が絶える事は殆ど無いと言っていいほど、彼女が街を歩けば注目の的になった。


勿論、その噂全てがいい噂だ。


街の男達は密かに姉の夫になろうと、あれこれと愛想を振りまいていたし、女達はその美しさを羨ましがり、妬むどころか、尊敬するほどである。


妹の私から見ても姉は綺麗で器量がよく、愛想もいいし、面倒見もよかった。


それでいて謙虚で、慎ましく、誰にでも平等で、絵に描いたような人だった。


何をしても上手く出来たし、何をしても許された。怒られることなどほとんど無かったし、褒められない日はないほどに。


才色兼備、大和撫子…そんな言葉を使うに相応しい人で、私にも変わりなく優しかったし、親孝行もしている。


私は常にそんな姉と見比べられて『劣』の印を赤く燃え立つ鉄の焼印で深く深く、刻み付けられた。


姉は優しかった。


私は姉が好きだった。


それでも姉が嫌いだった。


私が『私』で居られなくさせた姉が憎かった。


そんな姉は浮いた噂も流れることなく23歳を迎え、看護婦とシスターの兼業をしながら日々を忙しそうに過ごしている。


私は幾度か、この憎い姉を古屋千秋との会話にそれとなく交えて顔色を伺い見た。



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