ウェディングベル

行カナイデ







町中の人間の歓声が漸く鳴りを潜め、太陽は西に傾き、海に呑まれていく。


先ほどまで鳴っていた教会の鐘はもう鳴りを潜めてひそやかにまた町を見守っている。


私は乾いた頬を軽く擦りながら、何をするでもなく、その場に座り込んでいた。


夜はもうすぐ。


夜になってこの祭りごとが終わった頃、誰かがふと私がいない事に気付くだろう。


夜になんてならなくていい、ずっとこの夕日が沈まずに海に浮いていればいい。


そしたら誰も私を探しになんて来ない。そしたら私は誰にも愛想笑いをしなくてもいい。


私は立ち上がって、木に登った。


子どもの頃よりも下手くそになった登り方。不慣れな足場をヒールでよじ登って、手は時たま木に切りつけられた。


ドレスが汚れるのも、擦れるのも気にせずに、ただ夜にならないように太陽を、夕日を追いかけた。


登りきって、夕焼けを見た。


その空は綺麗すぎて、泣きたくなるほど綺麗だった。


私はまだ、無様にも古屋千秋を愛している。


どれ程悪態をついても、悪態をついている時間よりも愛していた時間の方がはるかに長いのだから。


そう、夕日は教えてくれた。


ゆっくりと夕日が沈んでいく。




「行かないで」




私は小さく呟いて、手を伸ばしていた。


夕日へと伸ばしたのか、幻影の彼に手を伸ばしたのか、もうわからない。










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