続・政略結婚は純愛のように
 それだけを言うのが精一杯だった。
 隆之は、そんな由梨を少しもどかしそうに見つめて頭を撫でた。
 由梨はその瞳を見つめながら、聞いて欲しい話があるから帰ってきたら時間をとってほしいと言いたい衝動に駆られた。
 あの日、隆之が黒瀬の名前を口走ったことに由梨はこだわっていた。
 普段はあまり冷静さを失わない彼を衝動に駆り立てたものは一体何だったのか。
 もしかしたら隆之も何か不安を抱えているのではないか。
 そんな気がした。
 そして互いに不安を抱えたまま離れてしまうことに言い知れぬ寂しさを感じた。
 せめて自分からそのわだかまりを解くヒントを彼にみせておきたい。
 けれど彼が東京へ飛ばなくてはいけないほどのトラブルなのであれば会社にとっては相当な一大事であるはずで、そんな時に私事を挟むのは気が引けて、結局なにも言わないまま由梨は彼を送り出した。

「遅くとも週末までには戻れると思う。お土産買ってくるからな、いい子で待ってるんだぞ。」

ふわりと笑って、まるで父親のようなことを言って隆之は家を出て行った。
 玄関で隆之を見送った由梨の肩に、外から迷い込んだ初雪がひらりと留まってすぐに溶けた。
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