続・政略結婚は純愛のように
マリアの告白
"私も明日東京へ出張することになりました。東京でも雪が降ったとニュースで見ました。暖かくして、体調に気をつけて下さいね。"

由梨からのメールをじっと見つめていた隆之は、向かいの席に人の気配を感じて顔を上げた。
 都心のど真ん中の高級ホテル最上階のラウンジである。
 窓の外には、隆之が育った街とは桁違いのきらびやかなネオンが広がっている。

「愛妻からのメールか?」

いつもの調子でからかう蜂須賀の表情にも疲れが見えた。
 隆之は質問に答えずに携帯の画面を閉じる。
 由梨からのメールの日付は一昨日、それに短い返信をしてからは連絡を取れていなかった。
 東京に来てから隆之は分刻みで動いた。
 ノリスの出店取りやめが確定的なった時に損害が出ると予想される各所への根回しと代替店舗との交渉、それらとノリスへの交渉を並行して行なっている。
 東京へ来て四日がすぎてもマリアの態度は変わらなかった。
 正確には、会うことすらできていない。
 丸大からの度重なる要求に耐えられなくなったとは言うけれど、理由がそれだけにしてはあまりにノリスに分が悪いという感想を隆之は抱いていた。
 違約金も発生する。
 隆之が東京へ来た本当の目的はノリスへの交渉ではない。
 ノリスの突然の契約破棄の本当の理由を探るためであった。
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