続・政略結婚は純愛のように
「あの男ならそれくらいやりかねん。」

そう言ってニヤリと笑う黒瀬に、由梨はあのホテルでの隆之とのやり取りを思い出した。
 あの日以来、黒瀬の由梨に対する態度はそれまでと全く変わりはなかった。
 あまりにも恥ずかしいところを見られてしまったと気に病んでいた由梨は、そのことに安堵したと同時にあのエレベーター前での出来事はなかったことなのだと思い込みたかった。
 けれどやっぱりあれは本当にあったことなのだ。
 少なくとも黒瀬は忘れていない。
 あたりまえといえばあたりまえのことなのだけれど。

「主任まで…。」

「現に今年は秘書課は営業と合同じゃないか。そしてうちは総務課、と…。意外と粘着質なんじゃないか?社長は。今井さんこんな夫で…大丈夫か?」

 大真面目な顔でとんでもないジョークを言う黒瀬に由梨以外の二人は声をあげて笑った。

「確かに!仕事でクリーンなイメージの社長のブラックな部分を見た気がしますね!!」

天川が机を叩いて言うのを睨んで、だから違いますってと由梨が言っても二人は笑い続ける。

「それにしても…今井さんが総務課の女どもの標的になるところまでは予想できていないのが社長らしいといえば社長らしいが。まぁ、それについては企画課の連中が全力で守るだろう。もう今井さんは我々の仲間だ。言われなき中傷には黙っていない。」

黒瀬の言葉に天川と山辺が大きく頷いたのを見て、由梨の中のさっきまでの忘年会への不安が吹き飛んでゆくのを感じた。
 社長の陰謀説には納得できなかったりけれど。

「ま、忘年会の社長の陰謀説については本人に尋ねてみるといい。…今日、お戻りみたいぞ。」

黒瀬が蜂須賀からのメールを開いて言った。
 2週間ぶりに隆之が帰ってくることを知らせるメールだった。
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