続・政略結婚は純愛のように
 隆之の低くて甘い声が由梨の脳を刺激する。
なんだか変な声が出てしまいそうで由梨は唇をぎゅっと結んだまま、コクリと頷く。
 隆之はそんな由梨の首元に鼻を埋めた。

「由梨の匂い…。安心する。」

 隆之の鼻先は、由梨の香りを楽しむかのように由梨の身体を辿る。
 そんな仕草はちょっと疲れた大型犬に甘えられているようだと由梨は思う。
 普段から多忙な隆之がこんなふうに由梨に甘えるなんて、今回の出張はよほどハードだったのだと由梨は思い、クセのある髪の毛を優しく撫でた。

「…こんなに疲れているのに…全部の課の忘年会に出たら体調を崩しませんか。」

 隆之が忘年会に出席するのは社員の日頃の頑張りを労うためだ。
 隆之は普段から社員とのコミュニケーションを大切にしている方ではあるが、そうはいっても一般の社員とっては遠い存在で、忘年会はそんな隆之と直接話せるチャンスと楽しみにしている者も多い。
 だからこれも彼の仕事と思いつつも由梨にはどうしても彼の体調の方が気にかかった。

「…二課同時にやってくれるからね、大丈夫だよ。まぁ、あまり飲み過ぎないようにした方がいいかもしれないけれど。…なにしろ連日になるからなぁ。」

隆之は由梨の胸元に顔を埋めて、くぐもった声で言った。
 それをこそばゆく思いながら、由梨はふと思い出して口を開く。

「二課同時にといえば、隆之さん。あの組み合わせはどうやって決まるんですか?」

どうやら由梨の問いかけは隆之にとっては意外なものだったようだ。
 気持ちよさそうに由梨の体を辿っていた鼻をピタリと止めて由梨を見上げた。
< 159 / 182 >

この作品をシェア

pagetop