続・政略結婚は純愛のように
「今井さん、私は会社という集団は適材適所であるべきだと常に思っている。」

隆之が静かに話しはじめた。

「だからこそ、我が社は年度初め以外の異動も多い、それは知っているね。」

由梨は神妙な表情で頷いた。
 大手企業では珍しいと言えるかもしれない。
 けれど使える能力が適所にないというのは宝の持ち腐れだという隆之の考えは社内に浸透していて、トップダウンは勿論のこと現場からのあがる意見も考慮しての異動はさほど珍しくない。

「そんな中にあって君の人事だけは、このルールに則っていたかったと言わざるを得ないんだ。…誤解しないでほしいんだが、君が秘書業務に向いていないというわけではない。むしろ君は良くやっていると思うし、現に役員からは長坂のアシスタントをさせておくのはもったいないから自分の秘書にほしいと声があがっているくらいだからね。」

 由梨は無言のまま驚いて目を見張る。
 そんな話は初耳だった。
 けれど確かに長坂のアシスタントはそれほど多くの業務があるわけではない。
 彼女自身が有能なのだから。
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