続・政略結婚は純愛のように
　由梨は真っ暗なリビングを通り抜けて、寝室へ向かう。
　夕食の材料は冷蔵庫にあるはずだけれど、何も食べる気にはなれなかった。
　寝室へ入りいつも隆之と二人で使っているベッドにどさりと身を投げ出す。
　身体が重くて着替えるのも億劫だった。
　結局、自分の中の弱さを飼い慣らすことができなければずっとこんなことが続くのかもしれない。
　隆之はいつも光の中にいていつも沢山の人を魅了し続けている。
　その隆之の妻である以上、由梨はいつまでも比べられ、なにかを言われ続けるのだろう。
　それはもちろん隆之のせいではないし、もしかしたら誹謗中傷を言う人たちのせいですらないかもしれない。

（私が…私が、隆之さんにふさわしくないから…。)

　ほんのわずかに隆之の香りが残るシーツを握りしめて由梨は肩を揺らして泣いた。
　由梨だって自分が少しずつ成長しているという自信はあった。
　今までできなかったことができる自由を得て、新しいことにチャレンジをして夢中でがんばっているつもりだ。
　けれどそのスピードはあまりにも遅すぎて、到底隆之にはついてゆけない。
　彼は、来春には父親の跡を継いで加賀ホールディングスの代表取締役にも就任するという。
　地方創生の流れに乗り遅れんとするこの地方の中で、やがてはなくてはならない存在となってゆくだろう。
　美しいだけではなく事業家としても成功を収める葉山マリアのような女性が隣にいればどんなに隆之の助けになるだろう。

「私じゃだめなの…。」

ぽつりと呟いて由梨は目を閉じた。
< 93 / 182 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop