さよなら、片想い
「そういえば今日は頭をぽんってするのを二回されたけど、あれはなんだったんです? 岸さんのマイブーム?」

 ベッドでもう寝るだけの体勢になり、他愛ない会話をした。
 どうしてこんなに眠いのか不思議だったけれど、そういえば週末でお酒まで飲んでいて、私にしては夜更かししている。いつ寝てもおかしくないのだった。

「近づきすぎたらさっきみたいに会話できなくなくなりそうで。距離を置こうと思った」

「のめりこんじゃっていいのに」

「で、帰ったら頭切り替えて制作に着手? 俺、そんなにできる人間じゃない」

 そこで言おうか言うまいか迷った。部屋にある着物の描きのこと。私のほうが上手く描ける。ならば、できることがある。
 だけど、今言うべきなのはそれではない。

「岸さん、ありがと」

「なに」

「あの訪問着のこと。私、そんなことしてもらったのはじめてだから嬉しいよ」

「そう」

「岸さんの思った反応じゃなかったかもしれないけど、私、これでも喜んでるからね」

 うん、と声が聞こえた。



 避けられていた理由はわかった。それで翌日どうしたかというと、岸さんの部屋で本を読んだりスマートフォンで音楽を聴いたりしてすごした。岸さんは例の着物の仕掛かり中だ。
 私だって描きの仕事中にされて嫌なことがある。邪魔はしたくない。
 大掛かりなパズルをまえにしたとき、岸さんはひとりでやり遂げたいタイプかと聞いてみるとそうだと言われた。

「じゃあ、描くのは手伝わないほうがいいよね」

 岸さんは私を見た。

「意外。描かせろと言うと思っていた」

 ふふん、と私は得意げに笑った。

「まだまだ私のこと、わかっていないですね」
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