さよなら、片想い
 でも次に会ったときに聞いてみた。内線電話の相手を、声だけで判別できるかどうか。

 設計部は二、三人で一つの電話を共有しているけれど、友禅部は事務机に二台置いてあるのみだ。
うちの部に限らず、製造工程の職場はたいていそんな感じなので、部署の通りすがりの誰かが出ることが多い。

「決まった部署にしか電話しないからわかるけど。自信がないときはこっちから『誰々さんをお願いします』って言ってるかな」

「私、岸さんと電話でやりとりしたことってそう多くないと思うんですけど、このまえずばり言い当ててましたよね」

「それは……名取さんだとわかったから」

 私が部署で一番の若輩者だからよそよそしさが口調に出ている、とか?
 それとも私のイントネーションがおかしいのだろうか。

「理由を知りたい?」

 岸さんのほうからそう言ってくれたので、私も前のめりになる。

「知りたい、です!」

 息を潜めて答えを待った。見つめあうこと数秒。

 岸さんは表情ひとつ変えずに
「教えない」
と言った。
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