さよなら、片想い
 岸さんは、私にくれた入浴剤のなかからひとつをトランプのカードでも引くように抜きとった。

「いつか、な」

 目を見てそんなことを言われたら、たとえ冗談でも心臓が持たない。
 お風呂だけ借りて済む話?


 その晩、岸さんから珍しくスマホにメッセージが届いた。
 昼間言いそびれたのだけど、と断ったうえで、私のあげた料理のことに触れ、ありがとうごちそうさま、おいしかったと。
 そこで終わっていたらよかったのだけど、文章はこうも続いていた。

『今度は礼とかいらないから』

 迷惑だったのかな。出過ぎた真似だったのかな。
 何度も読み返したものの、岸さんの真意はつかめなかった。

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