その青に溺れる
次の日、朝まで眠れたものの気だるい体を引きずり、いつも通りに一緒に出勤してスタジオの個室へ足を運ぶ。
その途中の道で彼が漫画のように「財布忘れた、取ってくる、先行ってていいぞ」と言って踵を返した。
彼が戻ってくるまでは時間がありそうだとコーデュロイパンツのポケットから携帯を取り出して持ち、ドアを開けて中に入ると涼太がソファーで座ってるのが見えた。
「……おはようございます」
「おはよ」
まだ8時過ぎだと言うのに涼太は涼しげに優しく笑って言う。
曇り気味の心が一気に晴れ間に変わるほどの爽やかな顔が此方に向く。
見られていることを知りながら隣の隙間の椅子に腰を下ろす。
ふと感じる温もりに視線を下ろしてる間にそれは背中を引き寄せ、どんな状況かと視線を辿ると目の前に涼太の顔。
いわば抱きすくめられてる状態の息が掛かりそうな距離で優しい声が落ちる。
「この服、佐伯さんに着せられてるの?」
「いや……」
その問いにどう答えたらいいのか迷って言葉が取り出せず。
どちらかと言えば涼太の言葉に違いは無いけれど、自分にはその自覚は無くて、会社で与えられた制服を着ているだけに近い。
「センス無いな、あの人」
そう言いながら涼太の指がゆっくりと背中を降りていく。
思わず姿勢を正す自分に構わず、その指が再び上昇し、顔が近づいた時
ドアが開き、彼の声が静かに落ちた。
「いい加減にしろ、此処どこだと思ってんだ」