キス時々恋心

展示会場に到着して自動ドアをくぐると、出迎えてくれたのは遙だった。
可愛い笑みが一瞬にして曇っていく。
そこまであからさまに嫌な顔をされるといっそのこと清々しい。

「来ちゃってごめんね……?」

彼女の表情を見ているとなんだか申し訳無い気分になってきて、その反応を窺いつつも初音は声を掛ける。

「ホント嫌」

遙は容赦無くズバッと言い捨てた。
しかし、パンフレットを手に取り「でも……作品を見たいって人を拒んだりしないわ」と初音に渡した。

雪次郎が彼女を友人の一人として慕い、紹介してくる理由が分かった気がする。
どんなに気にくわない相手でも“芸術”という枠の中では皆平等。
真摯(しんし)に向き合うその姿勢はとても好感が持てた。

「ありがとう」

初音は柔らかな笑みでパンフレットを受け取り、会場へと足を踏み入れた。
雪次郎の作品が展示してあるフロアを目指して。

風景画、抽象画、人物画とジャンルも様々。
画材も色鉛筆、水彩、油彩など様々。

一つとして同じものは無いのに全部が良い。

初音のワクワクは止まらなかった。
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