夫婦蜜夜〜エリート外科医の溺愛は揺るがない〜

「そうだったんですか……すみません」

「いいのよ。海堂くんが院長に話をしているとき、彼、とても真剣で。恥ずかしいセリフをたくさん言ってたから、どれだけ雪名さんを好きなのかと思ってね。海堂くんにそこまで言わせた雪名さんを尊敬してたの。だって本当に浮いた話ひとつなかったのよ、海堂くんったら」

いまいち木下先生がなにを言っているのかよくわからなかった。でも私たちの結婚を疑っているわけではないらしい。いや、むしろ羨望の眼差しを向けられているような気がするのだが。

「医学部時代に悟ったわ、彼は一生独身だろうって。ところが、数年くらい前から変わったのよね。前はもっと冷たい感じだったもの」

それは本当なのだろうか。とてもじゃないけど信じられない。新さんではない、他の誰かの話をしているのでは?

聞き返す間もなく木下先生はひたすら喋り続け、いかに新さんは女性に興味がなく、学生時代を勉強に費やしてきたのかをこんこんと聞かされた。

「でも私としてはうれしいわよ。海堂くんも男だったってわけだもんね」

木下先生がなにをどう聞いたのかは知らないけれど、真実なんて言えるわけがない。

結局私は特にアドバイスもできないまま、うんうんと相槌を打ちながら話を聞いた。

木下先生も本気で悩んではいないのか、はたまた聞き役がほしかっただけなのか、喋るだけ喋ってパスタを食べると満足そうに笑っていた。

ふたりしてお店を出ると何気なく駅のほうへ向かって歩く。

「雪名さんと話ができてよかったわ。人にアドバイスを求めるなんてまちがっているわよね。彼にはっきり自分の気持ちを伝えようと思う」

木下先生の顔はスッキリしているように見えた。それは私のおかげというわけでは決してない。状況を変えなければ、なにも始まらないからだと木下先生自身が気づいたからだ。

私もちゃんと向き合ってみよう。そう心に決めて、駅に着いたところで木下先生とわかれた。

< 71 / 120 >

この作品をシェア

pagetop