雪降る夜は君に会いたい
「どうしてコスプレの聖地、池袋に行かなかったんだ!」

 と言いたい。コンコンと言いたい。友達の彼氏が渋谷に来たからとかはどうでもいいんだ。ハロウィンだからコスプレ、それはわかる。だけどあの完成度なら何故池袋で勝負しないんだと小一時間問い詰めたい。
 まぁそれは半分冗談、つまり残り半分は本気なのだがそれは置いといて……天野さんのコスプレ……萌える、萌え萌えなんだよぉぉぉ!
 ただ、それを伝えることで天野さんは喜んでくれるのだろうか? 勿論自分を正当に高く評価してくれることは素直に喜ぶだろう。ただその評価基準がヲタク目線だということが気付かれてしまう。
 いや、逆にこのヲタク目線で評価したにもかかわらず褒めているのだから喜んで欲しいくらいなのだ。
 ここまでの考察で諸刃的な二つの疑問が出る。
 一つは俺がヲタクであることがバレる。
 もう一つはヲタクに評価されて嬉しいのかだ。
 俺が一般人としてコスプレは良く知らんが幻想的で良いねと褒めるのが一番良いのはわかっている。わかってはいるのだがそれは自分に嘘を付いているようで否めないんだ。
 やはり俺はヲタクとして正当にコスプレを評価したいんだ。ララァならわかってくれるよね? って天野さんはわかってくれるのだろうか。わかってくれなかった時のショックが大きすぎて俺は何も言えなかった。
 この結果、無言という天野さんを困らす結果になってしまったのだが……。

「───池袋も行くけどね」
「……え、え? なにが?」
「だから、池袋も行くことあるよって言ったの。聞いてないのぉ?」
「あぁ、いやいや」

 なんで急に池袋の話になったんだ? 俺の心の声が聞こえたのか? まぁ誰でも池袋くらい行くだろうに。

「それより頭切ったんだね。イメチェンして似合ってるよ」
「あぁ、髪ね」

 頭切ったら大怪我じゃないか! もしかして天野さん天然? いやいや俺は天然とか認めないぞ。マジだな、笑いを取りに来たのか? だとすれば俺はもっと突っ込みを鋭くするべきなのか。
 イカン。今迄の様に偶然会って話す時より余計に緊張するし何か良い事言わないといけないような自分自身にプレッシャーを賭け過ぎている。
 いや、意識し過ぎているのか。雪実のアドバイスによって脱ヲタクを心掛けて一ヶ月、やっと念願の本人に会えたと言うのにもっと普段通りにしたいところだが。

「眼鏡も止めたんだね。なんだか不思議な感じぃ」
「ハハハ。年中ヲタクのコスプレみたいだったしね」
「……」

 なんで無言なんだよぉぉぉ! ヲタクというキーワードがダメなのか? それともさっきの仕返しか? 確かに、自分の羞恥な部分を言った後に無言という空気は耐えられないものがあるな。考えがあったとしても何か返答するのが優しさだとわかる。
 再びお互い無言で食べていたが俺の方がそろそろ食べ終わりそうになった時、天野さんは切り出した。

「今週の土曜日の夜、空いてる? この間のお礼に食事でも……」
「今週は……あ、来週じゃダメかな?」
「来週……う、うん。磐石君の都合に合わすから来週の土曜日空けといてね」
「ほーい」

 うぉぉぉ! スカした返事で誤魔化しながらその場を後にして食べ終えた食器を片付けた。喜びすぎてお盆から落としそうになりながらも持ちこたえ、嬉しさが気付かれないように食堂を去った。

< 16 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop