たとえ君が・・・
患者は自分のお腹に手をあてた。
「ごめんね・・・ママを恨んで・・・ママを憎んで・・・忘れてね・・・。それであなたを幸せにしてくれる家に生まれてね・・・ごめんね・・・」
多香子は患者の肩に手を置いた。
そんな多香子の方を患者がみる。
「こんな私の選択をあなたも軽蔑しますか?」
「いいえ。」
「一度は愛した旦那の子供を産みたくないわけない・・・本当は産みたい・・・産みたいに決まってる・・・。でも・・・」
その時患者の携帯電話が鳴りだした。
「すみません・・・」
患者は電源を切っていなかったことを多香子に謝る。
多香子は首を横に振ると患者の携帯を取り、手に渡した。

その着信画面を見て患者は携帯に額をつけて泣き始める。
「出ていいですよ。先生にはもう少し待ってもらえるように伝えます。」
多香子はそう言って手術室を出ていこうとする。
「ここにいてくれませんか?」
患者の言葉に多香子は頷き患者の隣で立ち止まった。
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