かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「もう、後戻りはできないぞ? 今度は保証できないと以前言っただろ?」

これが彼からの最後通牒だった。

長嶺さんに抱かれてみたい……。

想いを伝えあったわけじゃないのに身体の関係だけ先に結ぶなんて、そんなこと……だめなのに。

「はい……」

頭の中に浮かんだ“貞操観念”という言葉に咎められた気がしたけれど、互の歯止めを効かせるには少々遅かったようだ。

ニットの上から胸をなぞられその手が裾まで行き着くと、勢いよくまくりあげられた。そして一気に頭の上まで脱がされる。下着を着けているとはいえ、急に空気に晒されてゾクッと肌が粟立った。長嶺さんは私の腰をまたいだ状態で膝立ちになると目の前で白いシャツを脱ぎ捨てた。

初めて目にする逞しい彼の胸板は、ほどよく筋肉がついていて二の腕もがっちりしている。
ごくりと大きく喉を鳴らしていると、私はあっという間に一糸まとわぬ姿にさせられた。

「震えてる、怖いのか?」

長嶺さんにそう指摘されるまで、自分が小刻みに震えているなんて知らなかった。別にセックスなんて初めてじゃない。だから怖くない。けど、自分がこれからどうなってしまうのかということを考えると不安だった。

「君の身体は……最高に綺麗だな。それに柔らかくていい匂いがする」

胸の膨らみをやんわり揉まれて無意識に内腿を擦り合わせる。

「あっ、や……」

きつく吸われたかと思えば甘噛みされて、今まで経験のない……感じたことのない刺激に私はどうしようもなく身体をくねらせた。

「そう動かれると、誘ってるようにしか思えないな」

「違っ……あ、ん」

身体の芯から熱がこもって疼く。肌を這う長嶺さんの舌が粘着質な水音を立てるたびに恥ずかしくてきゅっと唇を噛み締める。体中に溢れる波に溺れそうになるのを必死にシーツを掴んで堪えた。

「芽衣……っ」

互の荒い息づかいが部屋中に響き渡り、熱っぽく私を呼ぶ声が身体を包み込む。

何度も意識が飛びそうになりながら情事が終息を迎えると、部屋にこもった湿気が窓ガラスを微かに曇らせていた。
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