かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
「なぜ嘘をつく?」

「嘘なんかじゃ――」

長嶺さんはフローリングに落ちているなにかを拾い上げ、それに目を落とすとますます顔を曇らせた。

「だったらこの名刺はなんだ?」

名刺……っ!?

先ほどジャケットを脱いだときに落ちてしまったのだろう。なぜバッグに入れずポケットになんか入れておいたのだろうかと今更後悔する。

「この男と会ってたのか? どうして……」

「ち、違うんです! 仕事が終わって恭子さんと会っていたのは本当です。けど、その後……ひとりで飲んでたら、偶然声をかけられて……きゃっ!」

ダン!と音を立ててものすごい勢いで壁に押し付けられる。その衝撃で体内のアルコールが刺激されて眩暈がした。

「結婚するからと言って君の自由を奪う気はない。けど、別の男と二人きりだなんて……しかもこんな男と……」

迂闊だった。本当に気が緩んでいた。長嶺さんに名刺を見られてしまったことではなく、私は結婚するのだ。目の前の人と。それなのに、彼の気持ちを考えたら……。

「ごめんなさい」

長嶺さん、怒ってる……。
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