騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
「陛下とのお話は無事に終わったのですか?」

「今日のところは」

 アーネストは椅子に座り、エルシーは向かうように寝台に腰掛ける。

「近々、陛下は騎士団を率いて、ローランザムへ向かうご意向のようだ。表向きは、体調を崩した王女を祖国で養生させるための同行。しかし真の目的は本物の王女を迎えに行き、国境付近で不届き千万な動きをしているカーディフト国を牽制するためだ。もちろんディアン殿も連れて」

 ジェラルドは明日、朝から重臣らを招集し、軍議を開くつもりだという。

「本物の王女様をお迎えにあがるといことは……陛下は婚約破棄はなさらないおつもりなのですね?」

「そのようだ。そして、王女が替え玉だということも他に臣下には明かさない、と仰せだった」

 内陸に位置するここアシュクラインは数多の鉱山を有し、金銀銅といった豊かな鉱物資源で発展を成し遂げてきた国だ。しかし海がなく、海を隔てた国からの物資はどうしても隣国ローランザムを経由しなければ入ってこない。港を持つ国と繋がることで国内の物流をもっと活性化させ、それが民を豊かにする。ジェラルドにとって、この婚姻は大きな意味を持ち、おいそれと簡単に白紙に戻すわけにはいかないのだ。

 なんにせよディアンとパメラの命が助かったことに、エルシーはホッと安堵の息をついた。だが、すぐに次の心配事に表情を曇らせる。

「アーネスト様も、陛下に付き従って出立なさるのですか……?」

「ああ。すぐに王女と会えればいいが、一ヵ月は見ておいた方がいい」
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