騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 温かい言葉がエルシーの涙を誘う。思わず、アーネストにすがりついた。

「私も心からお慕いしております。……愛しています」

 アーネストはより一層エルシーを抱きしめる。

「君の待っていない家は、とても寒かった。心に穴が開いたようだった。だから、今から埋めさせてくれ」

 そう言うや否や、エルシーを寝台に押し倒す。

「あ、あの、アーネスト様、ここ王宮ですが……」

 自分を跨いだまま夫が性急に軍服を脱ぐ姿を見て、エルシーは戸惑った。だが、彼の少し余裕のない表情はどことなく野性的で妖艶さを含んでいて、エルシーの心拍数が上昇していく。

「やっぱり、ダメです……」

 それでも最後に残ったわずかな理性を奮い立たせ、弱々しく抗議したエルシーだったが、アーネストの甘い口づけのもとにあっけなく陥落した。




 翌朝、目覚めるとアーネストの姿はなかった。夫婦とはいえ、王宮内の同室で一夜を明かしたことが周囲に知られるのはさすがに体裁が悪いと感じたのだろう。昨夜、脱ぎ散らかされたエルシーの衣類等はきちんと椅子の背に掛けてあった。身体のけだるさと気恥ずかしさを抱えながら、それらを身につけると、エルシーは荷物をまとめてセルウィン公爵邸へと帰った。

 こうして最初で最後の家出は、早々に幕を閉じた。
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