【電子書籍化】騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 両国の結びつきを強固にするための政略結婚だが、グローリアは祖国の発展と民のため、一国の王女として運命を受け入れ、また新たな国で将来の王妃となるべく、日々努力を惜しまなかった。明るく聡明な王女を誰もが慕い、周囲は安心して来るべき日を心待ちにしていたが、期日が迫った今、やはり寂しさが現実味を帯びてきたのだろう。王女は時たまこうして部屋を抜けて、どこかに行ってしまうことがある。

 そして、そんなグローリアを探すのはいつもエルシーの役目だった。エルシーは他の侍女と違って抜け出したことに対して小言を言わない。先ほどのように「かくれんぼ」などと子供相手のような表現で和ませてくれる。包み込んでくれるような温かさを持つ、ふたつ歳上のエルシーにグローリアは一番心を開いているため、おとなしく言うことを聞けるのだ。

「さあ、戻りましょう。お風邪を召されては大変ですから」と言うエルシーに手を引かれ、グローリアは素直についていく。

「エルシー、あなたの手、冷たいわ。わたくしのせいね、ごめんなさい」

「あ、いいえ、これは先ほどまで水に触っていたからです。申し訳ありません、これでは逆にグローリア様の手が冷えてしまいますね」

 慌てて引っ込めようとするエルシーの手を、グローリアはぎゅっと握り返した。

「う、嘘よ、冷たいなんて嘘。この手がいいの、エルシーはいつも温かいもの」

「……かしこまりました」

 グローリアの寂しさが伝わってきたが、エルシーは微笑みを返すことしかできない。

「……しばらくしたら、もうこうしてエルシーに手を引いてもらえなくなるのね。エルシーも一緒に来てくれたらいいのに」

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