騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
(どうしよう……)

 その場で固まっていると、アーネストが小さく息を吐きだしたのがわかった。エルシーは居たたまれなくなって、すぐに頭を垂れる。

「突然お邪魔しまして、申し訳ありません……」

「君が公私混同するような人物ではないことはわかる。王女殿下の一存だろう」

 相変わらずな淡々とした口調だ。

「……それで? 君がここに来た理由は?」

「それは……お礼と謝罪を言いたくて」

 エルシーはおずおずと口を開く。

「母の宝物を取り戻してくださって、ありがとうございました。母も弟も安心していると思います。それに、昨日、弟から家庭教師の話を聞きました。そこまで考えてくださっていた方に、ひどいことを言ってしまい、大変申し訳ありませんでした」

 両手を握りしめながら、さらに深々と頭を下げる。アーネストは無言だった。だからこそ余計に彼の顔がまともに見られない。きっと呆れているか怒っているかのどちらかだろう。もしかしたら両方かもしれない。

「……いや、俺の方こそ、謝らなければならない」

 しかし、降ってきたのは思いもよらない言葉だった。エルシーはハッと顔を上げると、アーネストのほうもやや上体と頭を前に傾け、謝罪の意思を示している。

「君の気持ちも考えずに言い過ぎた。君がこれまでどんな思いで家族と家を支えていたかを最初に理解しなければいけなかったのに、現状だけで判断して、君を傷つけた。申し訳ない」

「いえ……あ、アーネスト様⁉ そんなっ、もう顔を上げてください!」

 なおいっそう頭を下げようとするアーネストに、エルシーは狼狽える。止めようとして姿勢を低くすれば、無意識のうちに彼の顔を覗き込む形になってしまった。至近距離で黒い瞳に見つめられ、エルシーは心臓が跳ね上がるのと同時に、慌てて後ずさった。
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