騎士団長と新妻侍女のひそかな活躍
 玄関ホールから外に出ると、門扉へと続くアプローチがある。その門扉の近くに、屈強な男の使用人たちに両腕を掴まれている若い男性の姿があった。こげ茶色の帽子と上着を身につけており、不審人物にしては、わりときちんとした出で立ちだ。

「何度も言うが、僕は怪しい者じゃないって!」
「では、なぜ屋敷の様子を窺うような真似を?」

 声を荒らげる帽子の男性に対し、冷静な姿勢を崩さないのは、新しく雇い入れた五十代の家令だ。

「だから、なんとなく入りづらかったんだ、って言ってるだろう。とにかくこの家の奥様か、お嬢様に会わせてくれ」
「何かやましいご事情がありそうな上、お約束もされていないお客様をお通しするわけにはまいりません」

 家令が屋敷の主たちに取り次ぎもせず、こう頑なな態度なのにはわけがある。不審に感じた者はひとりたりともこの屋敷に入れるな、というアーネストからの強い指示を受けているためだ。

「僕にはあとがないんだ。エルシーに、ヘクター・アボットが来たと、伝えてくれ」

(えっ、ヘクター?)

 彼らのやりとりが耳に届いたエルシーは驚いて思わず目を見張った。その男性の姿を確かめるために近づくと、やはり以前に王城で再会したヘクターだった。

「あっ、エルシー……」

 安堵と気まずさが入り混じったような情けないヘクターの声に、家令は振り向くと、エルシーに軽く頭を下げて一歩退いた。

「お嬢様、こちらの方が面会を希望されていますが……」
「話はだいたい聞きました。大丈夫、この人のことは知っています。友人……ではないのは確かだけれど。知り合い……と言えるほどお互いを知らないわよね。じゃあ顔見知り程度……?」
「……僕に聞かないでくれ。なんだか惨めに思えてくる」

 ますます情けない声を出すヘクターを見たエルシーは、緊張感から解放されて小さく息を吐く。そして、とりあえず彼を客人として応接間へ通すよう、家令に指示を出した。

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