翡翠の御石
姫は、幼い頃。
交差の中心で、一人の旅商人と出逢った。

東西を繋ぐ街道と、南へ伸びる街道。
二つの道が交わる。

交差の中心に在る糸魚川藩は、藩が出来る遥か昔から、
交通の要所、軍事の要、宿場町として成り立っており、
人々の往来が多い。

交流で栄えた場所が、やがて藩に成った、に過ぎない。

財政難、解決の糸口を見出そうと、
藩では、行商人や旅人からも、多様な意見を求めていた。

立地上、糸魚川は幕府の本拠地である江戸と、離れている。
お陰で、こうして自由な采配が振るえる。

諸藩を取り締まりたい幕府の監視、法や思惑、
しきたりが、及びにくい。届きにくい土地であり。

大っぴらには出来ないが、藩独自の裁量で、物事をコッソリと推し進めたり、
決められる節もあった。

しかし、逆を言うと。
民も、各々の裁量で、藩や幕府に抵抗できる自由度が在る。

先の一揆も、続く一揆も、止むに止まれぬ事情がある。
民側の方策の一つだった。

とはいえ。それ程までに、藩と民は、切迫している。
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