恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―


「こういう時、いつもはひとりでうまい店に行くんだが……今日は白石の顔が頭に浮かんだ」

驚いて見上げると、北川さんは視線だけを私に向けていた。
女性恐怖症の北川さんが、女性である私を頭に浮かべるなんてすごい進歩だ。先生の立場からするととても喜ばしい。

胸の奥でコロリとなにかが音を立てたのは、北川さんの成長が嬉しいから……なのか。だけど、それだけではないような胸の跳ね方に首を傾げたくなる。

「都合が悪いか?」

私がすぐに返事をしなかったからか、聞かれ、慌てて首を振った。

「いえ。大丈夫です。嬉しいです」

「それならよかった」と表情をゆるめる北川さんを見て、このひと、こんなに優しく微笑むひとだったっけ……と考えていた。



「女性の心理として、あまり閉じこもっていると母性本能が刺激されて〝手を差し伸べたい〟となってしまうこともあると思うんです」

北川さんが連れて行ってくれたのは、会社の最寄り駅から三つ先の駅近くにあるパスタが人気のお店だった。

私は、ほうれん草のクリームパスタを頼んだのだけれど、これが絶品だった。味も濃さも好みど真ん中で、喜ぶ私を北川さんが笑って見ていた。

勧められるままデザートのジェラートまで頂いた後、最寄り駅まで向かう道すがら、〝母性本能〟について話す。

二十一時近い空は暗く、通行人もそう多くはなくなっていた。
オフィス街からは少し離れたからだろうか。

「母性本能?」

わからなそうに聞く北川さんにうなずく。

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