ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
Hiei's eye カルテ20:もうひとりの先輩
【Hiei's eye カルテ20:もうひとりの先輩】
「おう、日詠か。」
『久しぶりです、入江さん。』
「こんな夜中にどうしたんだ?」
『運転して眠くなったので、電話してみたんです。すみません、夜分遅くに。』
急に気を失った伶菜が目を醒ましたのを見届けた俺が病院へ出勤しようと東京から名古屋へ向かう途中。
伶菜の息子の祐希君の手術が無事に終わったこと、そして
彼の母親である伶菜の頑張りをもこの目でみることができたこと
それらによって安堵したせいか 、運転中、何度も催す眠気を振り払えず、富士川サービスエリアでクルマを停めた。
そのサービスエリアは富士山が見える場所にあるらしいが、もうすっかり日が暮れた夜の今、さすがにそれを眺めることはできない。
視覚で気分転換できないのならば、聴覚でと思い、携帯電話を手に取ったというところだ。
「いや、俺も今、帰って来たところだから。それにしても珍しいな、電話してくるなんて。」
『珍しいですか?』
「忙しいお前が電話してくるなんて、昔、フッた女絡みでなんかあったのか?」
入江さんは学生時代、生活費の足しにしようとバイトしていたイタリア料理店で一緒に厨房の調理補助のバイトしていた人。
その頃の彼は、名古屋国立大学の理学部生で、俺より2才年上。
俺よりも先にその店で働いていたこともあって、後輩の俺に色々教えてくれた人だ。
『何もありませんよ。俺はフラれるほうですから。』
「何、言ってるんだか。お前がそう仕向けていたクセに。」
『・・・・・・・・』
「で、なんだ。用事があって電話してきたんだろ?」