ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
Reina's eye ケース3:懐かしくて優しい私だけの特効薬
【Reina's eye ケース3:懐かしくて優しい私だけの特効薬】
病院の屋上から抱きかかえられたまま病室に運ばれた私はベットに横にされた。
駅からずっと付き添ってくれて検査もしてくれた産科医師に。
「落ち着いた?ちょっと横になっててな。」
彼は私にそっと布団をかけ、微笑みながら私の頬の上を流れ落ちていた涙を指でそっと拭い取り、病室を後にした。
薄いピンク色のカーテンで仕切られた4人部屋の病室。
隣と前のベットは空いていたが、斜め前のベッド周りを包んでいるカーテンには人影らしきものが映し出されている。
いつもの私なら、いつ挨拶しようかと考えるところ。
でもこの時の私はそこまで気が利かず、ただ天井を見上げているだけで、一社会人として気を遣う気力すらなかった。
そんな中、自分のベット周りを取り囲むカーテンに背の高い人影が映った。
「これ、飲むか?」
カーテンの隙間から見えたのは湯気の立っている黄色いチェック模様のマグカップ。
『・・・・先生?えっと・・・』
カーテンの向こう側から聞こえてきた声。
ついさっきも聞いていた声。
声で私を助けてくれた先生だとはわかるけど
名前すらわからない
それなのに
なぜかマグカップをもって現れた先生に
どう反応していいのかわからない
「いきなり、こんな風に現れるなんて怪しいよな。」
戸惑ったままの私を感じ取ったのか
マグカップと入れ替わるように差し出されたのは
写真入りの名札。
遠慮気味に笑みを浮かべているその写真。
私が今さっきまで向き合っていた彼の険しい表情とは異なる誠実そうな表情。
その名札はすぐさま引き下げられてしまったから
じっくりとその写真の表情を見ることはできなかったけれどなんとか名前は見た。
”日詠 尚史”と書いてあった。