ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
Hiei's eye カルテ37:自分と正反対な人間
【Hiei's eye カルテ37:自分と正反対な人間】
「そんなにも肩の力が入っていたら、潰れますよ~日詠センセ。」
一緒にいた三宅教授や父さん、伶菜達よりも一足早く屋上を後にして、緊急対応を終えた後に医局へ戻った俺の背後から聞こえてきた声。
「ほら、バナナでも食べて。肩の力、抜いとかなきゃ。」
振り向いた瞬間、バナナを差し出してきた手術着姿の男あり。
そういえばこの前もこうやってバナナを突き出して来た彼。
『腹、いっぱいなんで。』
「顔色悪いですよ。」
『ずっと勤務が続いていたせいかと。お気持ちだけ受け取っておきます。』
今回は俺が突き返したバナナを無理矢理押し付けられることはなかった。
「そういえば、NICU(新生児集中治療室)にいる、分娩時に腕神経叢麻痺を発症したベビー、オレが担当することになりました。」
『・・・・・・・・』
大丈夫なのか?
医局でバナナを押し付けてくるような男で
俺は矢野先生に依頼したんだが、
なぜこの人なんだ?
森、森・・・森なんだったか?
顔は覚えているけれど、名前が出てこない
「日詠先生、酷いな~。今、俺のこと、誰だっけ?って思ったでしょ?」
『・・・すみません。お名前、存じ上げなくて。』
「整形外科で手の外科を中心に活躍している森村デス!!!!!」
親指を突き立てながら前のめり気味に自己紹介してきた森村と名乗るバナナ男
結構ふざけた態度を取ってくるこの男に
NICUのベビーを任せてもいいのか正直不安になる
一応、矢野先生に森村という医師がなぜNICUにいるベビーの担当になったかを確認しておかなきゃな
俺はこの人の腕というものを知らないから
もし、矢野先生が手いっぱいという理由だけで彼に任せたのであれば、もう一度、事情を話して矢野先生に担当してもらうように働きかけよう
ベビーの治療を確実に行ってくれる信頼できる医師でないと
ベビーやそのご家族は勿論、
亡くなってしまった久保も救われない
『それじゃ、失礼。』
いちいち彼にそれを問い質すことで、余計なエネルギーを使いたくない俺は彼に背を向け、病棟のほうへ向かおうとした。