ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



反射的に動いた故の行動といくら言い訳しても事実は変わることはないだろう

俺はどう言われても構わない
でも
伶菜に肩身の狭い想いはさせたくない


『らしくないだろ・・・・』


こういうことで反省する自分にも正直戸惑う
でも行動に気をつけなければならないことは間違いない

それを頭の中にちゃんと刻みながら、
伶菜の体調とお腹の中の胎児の成長を見守りながら時は流れ、
気がつけば、伶菜が入院してもうすぐ2ヶ月が経とうとしていた。


お腹の張りも落ち着き、胎児の成長も順調
悪阻もかなり良くなったと聞いている
点滴などの内科的治療も必要がなくなった
貧血だって基準値まで戻っている

なによりも顔色がよく、表情も穏やかだ
そろそろ赤ん坊とともに過ごす生活準備を始めてもいい頃かもしれない




「日詠先生、高梨さん、そろそろ退院とかどうでしょう?」

『・・・・・・・』

「日詠センセ?」

『あっ、そうですね。退院。高梨さん。』

「じゃあ、近日中に計画書作成しますね。」

『わかりました。出来たら僕に見せて下さい。』

俺はそろそろ退院を考えては?と微妙なタイミングで助言してくれた担当看護師にそう返答をした。



駅で伶菜を偶然見つけて
入院してからも色々あったけど、もう退院か・・・

朝、回診で挨拶を交わしながら顔色を見て
昼間はデイルームで他の妊婦さんと一緒に話をしている様子を通りかかったついでに目をやり
就寝前にホットミルクをベッドまで届けてやる

そんな毎日が俺の中でルーティン化されていた
俺の毎日に、伶菜がいることが普通になっていた

そこに彼女の退院の話が看護サイドから舞い込む
出産後の退院ではないが、切迫流産の症状が改善したことによる退院も喜ばしいことなはずだ

病院という場所は病気を治すところであって
日常生活を過ごす場所ではないから

退院し、彼女の日常に戻る
それが彼女にとっての普通な状況
それに戻ることは喜ばしいことなはず

それなのに素直にそう思えない自分がいる

病院で過ごす時間が長い俺の生活の中で、伶菜という存在が大きくなっているからだろう



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