ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
Reina's eye ケース54:扉の向こう側
【Reina's eye ケース54:扉の向こう側 】
さっきまで浜名湖で入江さん達と一緒にいたお兄ちゃんと私。
私がトイレで着替えている間に帰ってしまった入江さん達のせいで、私はまたお兄ちゃんとふたりきりになった。
そして、そろそろ行こうと言われ、一緒にクルマに乗った。
ふたりきりの車内は、お互いに何を話すことないまま、クルマは静岡、掛川、浜松とそれぞれの目的地までの到達距離が書かれた青色の道路標識の矢印が指し示すほうへ走っていく。
さっきまで人の気配がほとんどない海岸沿いの道を走っていたのに、徐々に灯りが燈っている民家や飲食店が増えてくる。
すっかり日が暮れ、丁度、帰宅ラッシュの時間帯のせいもあって、渋滞の中に飲み込まれる。
運転をしない私は渋滞の列が織り成すテールランプの一筋の赤い光の動きをじっと見つめるだけで、お兄ちゃんもハンドルを握って前を見ているだけ。
それなのに相変わらず私達は黙ったまま。
緊張しているのは私だけじゃないような気がする。
そして、渋滞の中にいながらもなんとか大きな駅の近くまでやって来た私達は、この辺りで一番高いタワーらしきビルの地下駐車場でクルマを停めた。
「降りよう。」
『あっ、うん。』
「さすがにコレは外して行ったほうがいいかもな・・・」
ようやく口を開いたお兄ちゃんはそう言いながら、私の頭に載せたままだった白衣をそっと外してくれた。
そして運転席から素早く降りて助手席のドアを開けて、車から降りようとしているのにドレスの裾が気になってまごまごしている私に手を貸してくれる。
その手の冷たさに、そういえば彼もさっき海で体を濡らしてしまっていたことを思い出す。
多分、着替えることなく、そのままのはず。
着替えでも買いに来たのかな?と思いながらエレベーターに乗り込む。
乗ったエレベーターの中には私達以外には誰もいない。
それでもまだ何も喋ろうとしない彼。
口下手の彼が喋らないのは普段からあることだけど、診察室以外でここまで緊張感が伝わってくる彼は初めてかもしれない。
そんな彼と一緒にエレベーターを降りた所はホテルのフロント階。
しかも、見上げるとバルコニーみたいなものがあり、そこからこちらを見下ろせるようになっている。
出入り口からフロント辺りまで上品なゴールド系の色調で統一されており、お客様の荷物を運んでいるベルボーイさんも質が良さそうな帽子を被っていて、高級感漂う空間。