心がささやいている
(流石にちょっと…。やっぱり、ヘコむよなぁ…)

体裁の為だけに利用された、それ自体は別にいいのだ。そこに存在しないものを知らずに必死に捜し続けているさまは、端から見れば滑稽(こっけい)だろうけど。それでも、こちらとしてはタダ働きではないのだし仕事という意味では成り立ってはいる。ただ…。
(保健所って…。一番ダメな選択だって…)
それだけが、ただただショックで。せめて、行動する前に相談してくれれば救うことも出来たかも知れないのに…と悔やまずにいられないのだ。
動物を飼う以上、最低限覚えていて欲しいと思うのは傲慢(ごうまん)だろうか。それは、かけがえのない大切な一つの命なのだと。
例えどんな理由があろうとも、飼う以上は最後まで責任を持って愛情を注いで欲しいと切に願わずにはいられない。

「はぁ…」

静かな室内に思いのほか大きく響いてしまった溜息に、自分で気付いて口をつぐんだ。すると、丁度奥から颯太がトレーに温かい飲み物を乗せて現れた。溜息もすっかり聞かれてしまったようだ。

「大丈夫…?身体冷えたろ?これ飲んで少しでも温まって」
「…悪いな、颯太。ありがと」

いただきますを言ってトレーからカップを受け取ると、颯太も自分の分を手に取りトレーを横の棚へと置いた。互いに無言で飲み物を口にして一息ついたところで、ずっと気になっていたことを口にする。

「なぁ、颯太」
「ん?」
「ずっと考えていたんだけど。依頼人が嘘をついてたこと、何で分かったんだ?」

颯太が戻って来た時に誰かと会って話を聞いたのだろうことは普通に推測出来たけれど、それが誰でどういう経緯だったのかが気になっていた。だからといってそこに深い意味などはなく、誰に聞いたの?的な軽い感覚だったのだけど。
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