旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

「嫌いになんて、なるわけないのにね……」

 狭い個室の中に、私の情けない声が響く。じわりと目に涙が浮かび、私は思わずぎゅっと目を閉じた。

 そして自然と思い返すのは、今日の昼間突然会社に現れた、一見無邪気でかわいらしい、ある女性のことだった。



『蟹江さんにお客様が見えてます』

 お昼の休憩を終え、さぁ午後からもうひと頑張り!と気合を入れ直していた頃、受付からそんな連絡をもらった。

 今日は誰かと会う予定はなかったはずだけどと首をひねりながらも、急ぎの仕事などはなかったため応接室に案内してもらって、そのお客様と顔を合わせた。

『はじめまして、鷹取佑香(たかとりゆうか)と申します。どうしても蟹江さんにお願いしたいイベントがあって……』

 応接室で向き合った彼女は、アニメ声優のように愛らしい声で、愛嬌たっぷりに挨拶した。そしてかわいいのは声だけでなく、小柄な体形や子犬のように濡れた瞳、まっすぐなセミロングの黒髪まで、すべてが清楚で可憐な雰囲気だった。

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