記憶の中の溺愛彼氏
映画館につき、予約していた時間のチケットを受け取り、ドリンクやポップコーンを購入して、シアター内の椅子に座った。
私達は通路側に沿った後方の席に座り、映画が始まるのを楽しみに待っていた。

空席も少しずつ埋まり、開始時間が近づいてくる。隣に座る先輩と、時々小さな声で話したりしながら、前方の空席に座る人達をぼんやり眺めていた。
開始前の駆け込みで何人かが慌てて階段を登ってくる。
その中で、一人だけゆっくりとした足取りで座席を確認すると、チラッと私の方を向いて意味ありげな視線をよこした。

「………!!」

驚きで言葉にならない。
翔君…
どうしてここに!?

びっくりして、メールで確認しようにも"携帯の電源をお切り下さい"と、アナウンスが流れてて、仕方なく知らないふりを決め込もうと思った。

照明が暗くなって、映画の予告、そして本編が始まった。

映画はオススメなだけあって、感動して泣いているのか、あちこちですすり泣く声が聞こえた。

私も泣くつもりでハンカチまで用意してたのに、
翔君が視界にどうしても入ってしまい、話に入って行けなかった。

…もう、どういうつもりなんだろう!

怒れてくるより、呆れてしまった。
大人っぽくなった翔君には似つかわしくない行動だったから。

それでも横にいる緑川先輩には分からないように、映画館を出てから落ち着ける場所を探す。

目についたのは、女性が好きそうなのピンク中心の、可愛い感じのデザート専門カフェ。
男性が一人で入るには躊躇してしまうようなお店だ。
「先輩!あのお店でお茶でもしませんか?」

とにかく映画館を出て、どこかに落ち着きたい!
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