問の答えなどどこにも存在しないのではないか
自分の感覚

これでいいの

ふと、自分の時間が飛んでいる時がある。

それはもちろん、本当にタイムスリップしているわけではなく、体感的にー自分が今その場にいなかったような、たった一人だったような感覚ー時間が飛んでいるのである。

今も、目の前の白い箱に入った銀色に輝く輪っかを見つめながら一人、内にある自分と議論をしていた。

目の前では啓介が私の顔の前で手を振って、私の名前を呼んでいる。

そう、たった今私はプロポーズされたのだ。

場所は何度もデートで来ているカフェ。いつもの場所。こじんまりとした小さなカフェで、私はチーズケーキ、啓介はブラックコーヒーを頼むのが常だった。

はっ、とあたりを見回すと、不安そうな啓介の顔とプロポーズされた私の返答に注目する数人の観衆がいることに気づいた。

私は何を考えていたのだろうか。

3年半も付き合った啓介からのプロポーズ。さっさと受け取って仕舞えばいいのに。

何かが喉の奥の方に引っかかる感覚を覚えながらも、

「こんな私でよければ、よろしくお願いします。」

声を絞り出した。

目の前にある顔がふにゃっと歪み、周りの数人の観衆は拍手を送った。

たった数秒の空白の時間。私は何を考えていたのか全く思い出せない。無意識のうちに、自分の中の感情や欲望が一気に溢れ出し、目まぐるしく私の中を駆け巡って、

「ごめんなさい。」

この言葉を言わせようとしたこと、ただそれだけの記憶がくっきりと染み付いた。

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