いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


手をキツく握ると湿り気を感じる。
緊張続きで汗ばんでしまっているみたいだ。

「っと、待て待て。 力むなって、別に俺を好きになれって言ってんじゃねぇぞ」
「だって……や、八木さんまで意味のわからないこと言うんですか……」
「違う、簡単な話だろが」

八木は肩に触れ、グイッと真衣香を胸元に押し付けた。
目の前にサックスブルーのネクタイが映る。

「俺はお前を好き勝手されるのが気分悪い、お前は坪井と関係戻す気はない。 だろ? だったらギブアンドテイク、一緒にいることに俺にもメリットはある」
「え……。意味が、よく……」

「あー、伝わんねぇか、お前には」と、優しい声が頭上で響いて。

「俺、多分お前に惚れてるわ。 んな訳だからいいように使えって」

「は……?」と、驚きのあまりマヌケな声を出すことしかできない。
そんな真衣香の状態を見透かしているように、ポンポンっと背中を撫でられる。

「別に坪井と張り合って言ってねぇぞ、さすがに。こいつすげぇなって思ったから。 あの日、あんなボロボロでも人を気遣える奴がいんのかってな」
「……な、何のことです……か?」
「いや、こっちの話」

優しい声が真衣香を包み込むようにして、響き渡る。

「とりあえずお前いい女だから、自信と自覚しっかり持て。 しょーもねぇ男に振り回されんな」


優しさに甘えてしまいたくなる。
抱きしめられていたら、胸が痛くなるような、あの夜の記憶を薄れさせることもきっと叶うんだろう。
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